取締役を不当に解任された
不当な辞任要求を受けた
株主間紛争に巻き込まれた
取締役を不当に解任された
不当な辞任要求を受けた
株主間紛争に巻き込まれた
ある日突然、取締役を辞任するように圧力を受けた。辞任に追い込むような嫌がらせを受けた。辞任することに納得できないまま抵抗していると、何ら納得できる理由を示されないままに取締役を解任される事態になった。
辞任要求も辞任の相談も一切何もなく、突然一方的に取締役を解任する旨を告げられた。
このように、不当な圧力を受けたり、不当に解任された取締役は、会社に対する対抗手段として損害賠償請求を行うことができます。
また、同意していないにもかかわらず、役員報酬を減額された取締役は、減額された役員報酬の支払請求ができます。
同様に、一方的に役員報酬が全額支払われない取締役は、未払役員報酬の支払請求ができます。
さらに、会社が退職慰労金や報奨金を支払う約束をしたにもかかわらず、約束を破って支払わない場合には、取締役は退職慰労金や報奨金の支払請求ができます。
このような会社内紛争に直面している方は、三橋総合法律事務所へご相談ください。
任期満了前に解任された会社の役員(取締役・監査役・会計参与)や会計監査人等の方で、次に該当する場合には、役員報酬等の相当額を損害賠償請求できる可能性があります。
会社法上、株式会社の役員(取締役、会計参与、監査役)及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができるとされています(会社法339条1項)。
そして役員等の解任には、形式的かつ適法な株主総会手続を行うことは必要ですが、実質的な理由や原因は必要ありません。そもそも株式会社の役員等は、株主の委託のもと株主の利益のために会社の業務を執行する者ですから、その選任・解任は、多数派株主の一存に委ねられます。
したがって、解任の理由が何であれ、多数派株主が「解任する」と決定した以上は、役員であることの正当性は失われ、役員は解任されることになります。
他方で、何ら正当な理由がないにもかかわらず株主の一存で役員を解任できるとすれば、役員の地位や報酬に対する役員自身の期待を著しく損なうことになります。
そこで会社法は、解任された役員は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができるとして(会社法339条2項)、役員の地位に対する期待を金銭賠償という形で間接的に保護しています。
役員(取締役、会計参与、監査役)や会計監査人等の解任に「正当な理由がある場合」とは、裁判実務上の傾向として「役員に職務を執行させるにあたり障害となるべき状況が客観的、合理的に生じた場合」をいうとされます。この基準のハードルは低くなく、「裁判実務においては、取締役の解任の自由を保障しつつも、取締役の任期に対する期待を保護する必要性は軽視し得ないとして、一般的に正当理由の存在は厳格に解釈されているのが実情である」とされています。具体的としては、次のような場合があげられます。
他方で、大株主の好みや、より適任な者がいるというような、単なる主観的な信頼関係喪失を理由とする場合には、業務執行の障害となるべき客観的事情があるとは言えず、「正当な理由」は認められないものとされます。
また、経営判断に失敗した場合に、解任の正当な理由があるといえるかは争いがありますが、有力な見解によると、解任の「正当な理由」はないとされています。
更に、近時の裁判実務では、上記の類型に当てはまらない新しい「正当な理由」の類型が増えており、多様化しています。裁判官としても何が「正当な理由」に当たるのか確信を持てない状態に陥ることがままございます。弁護士としては、漫然と事実関係を争うだけではなく、「正当な理由」の類型や参考となる裁判例を細かく分析して示すことで裁判官を説得する訴訟活動が必要になる局面が多くみられますので、弁護士の経験値によるところが大きくなっているといえます。弊事務所では公刊物未搭載裁判例を含めて多くの判決を獲得していることはもちろん、判決に至らないものでも裁判官の心証開示を踏まえた訴訟上の和解をした訴訟案件を数多く手がけております。
なお、解任に「正当な理由がある」ことについては、会社側が主張立証責任を負いますので、会社側が証拠に基づいて解任に正当な理由があることを示す必要があります。また、大株主及び会社側の供述以外に的確な裏付け証拠が存在しない事案が多数ありますが、圧倒的多数の裁判例において、解任の正当理由は認められていません。
もっとも、主張立証責任が会社側にあるとしても、解任された取締役側が会社側の主張立証活動を指をくわえて眺めているだけでは勝訴可能性は低下することになります。取締役側も勝訴可能性を上げるための訴訟活動をする必要があります。裁判実務上、大変遺憾なことに会社側が虚偽主張を繰り返す事例が多数あり、会社側の虚偽主張に騙される裁判官もいます。特に、実際には無関係の証拠を用いて正当理由があるかのように立証しようとしたり、事実関係の全体像を示さずに証拠の一部だけを切り取って正当理由があるかのように立証しようとする会社は珍しくありません。むしろ、紛争が先鋭化して訴訟に至るケースでは、弊所が訴訟代理をほぼ100%のケースにおいてそういった虚偽主張や遺憾な立証活動がなされています。裁判官が虚偽主張に騙されないためにも、取締役側も解任には「正当な理由がない」と反証する訴訟活動を行う必要があります。そのためにも、あらかじめ取締役側も解任に至る経緯等について証拠を収集しておき、将来の訴訟活動に備えるべきです。
人間がつく嘘は想像の産物であり人間の想像力には限界があるせいなのか、会社側の虚偽主張は一定の法則性が見られ、パターン化している傾向があります。どのような虚偽主張がパターン化しているのか。どのような証拠が裁判上有利に働くのか。どのような主張立証活動をすれば裁判所を説得できるのか。等々、訴訟実務上の留意点については、解任賠償訴訟の豊富な実績がある弁護士にアドバイスを求めることが有効です。
正当な理由なく不当に解任された役員が賠償請求できる損害の範囲は、ある裁判例によると「役員が解任されなければ在任中と任期満了時に得られたであろう利益の額」とされています。この「利益の額」とは、一般的には、役員報酬や退職慰労金の相当額になりますが、必ずしも役員報酬に限られるわけではなく、意外なものが損害賠償の範囲に含まれることもありますので、慎重に検討する必要があります。
たとえば、家賃補助費が問題になったケースがあります。弊所が担当した訴訟では、東京地方裁判所と東京高等裁判所で解釈が異なりましたが、家賃補助費を損害として認定する高裁判決が参考になります。
ほかにも、プロジェクト成功時にボーナスを得られる形態の報酬契約だった場合、プロジェクト成功直前に解任された場合は当該ボーナス相当金額を請求できることがあります。
なお、会社法339条2項の役割が任期満了時の取締役の経済状態を保障する点にあるとすれば、訴訟を提起するために要した弁護士費用相当額は損害の範囲に含まれるという見解もあるものの、東京地裁商事部の裁判実務ではあまり一般的な見解ではありません。
役員報酬相当額については、役員の任期は会社の定款に明記されている場合が通例ですが、その定款で定められた任期満了時まで継続して得られるはずであった役員報酬相当金額を請求することができます。たとえば、任期2年の取締役が就任後5か月を経過した時に解任された場合には、残存任期1年7か月分の役員報酬相当額を損害として請求できます。
さらに、2年を超える長期の残存任期にしたがって、賠償額を算定することも可能です。弊事務所が担当した訴訟案件では、8年以上の長期にわたる残存任期どおりの賠償額を認定した裁判例があり、東京地裁商事部及び東京高等裁判所の双方において確定判決を獲得しております。この点については学説上「株主数が少ない会社の場合、取締役の改選は、一般株主の信を問う手続ではなく、経営者同士が相互に信任を与え合う手続に過ぎないから、定款で長い任期を定めることは、経営者同士が株主間契約による相互の地位を保証し合い、契約に違反した場合の賠償額の予定(民法420条)まで取り決めたに等しい。任期中に正当の理由なしに解任した場合には、解任された取締役に損害賠償請求権が発生するからである(会社法339条2項)」と評する見解があります。しかしながら、裁判実務ではこの点が熾烈な争点となりますので、裁判例の実情や事実関係を含めて裁判官を説得する必要があり、弁護士の経験による訴訟活動の影響が大きいといえます。
特例有限会社の取締役等が解任されたとき「任期の定め」がないケースで会社法339条2項に基づく損害賠償請求が認められるのかは裁判所によって判断が分かれます。旧商法の規定には「任期ノ定アル場合ニ於テ」という文言があり、任期の定めがある場合に限って損害賠償が認められていました。会社法339条2項には、「任期の定めがある場合」という文言はないのですが、旧商法の規定に配慮して損害賠償請求を認めなかった裁判例があります。
しかし私見を述べると、任期の定めがない場合に、すべてのケースで一刀両断に損害賠償請求を認めないことが妥当とは思われません。旧商法が任期の定めを損害賠償請求の要件としていた立法趣旨は「任期の定めがない取締役はいつでも解任されることを予測して取締役に就任した」という点にありますが、その立法趣旨が現実の全ての事案に当てはまるわけではなく、任期の定めがないことが何を想定しているのかは、個別具体的な事案との関係で検討を要する問題です。たとえば「任期の定めがない」理由が、取締役が一時的な助っ人としての立場でいつ解任されても問題ないことを想定していた点にある場合は、取締役の任期に対する期待はないので、取締役を保護する必要性はないといえそうです。他方で、「任期の定めがない」理由が、取締役が終身的身分で就任して収入保障を想定していた点にある場合には、任期の定めがある場合以上に取締役の地位に対する期待は大きいので、取締役を保護する必要性は高いといえそうです。
なお、上記の損害の範囲に関する「在任中と任期満了時」という言葉は、任期の定めがある通常のケースに則したものにすぎず、「任期の定め」が必要不可欠の要素であるというわけではありません。任期の定めがない場合でも「利益の額」を算定することは可能です。
一方的に取締役等の役員報酬が減額されたり、不支給になるケースがあります。そのようなケースでは、多くの場合、取締役等の役員は、会社に対して、未払いの役員報酬を請求できます。
役員等の報酬がいったん適法に定められると、当該報酬契約は、会社と取締役を拘束することになりますので、当該役員等の同意がない限りは、役員報酬を減額することや、不支給にすることはできません。仮に、役員報酬を減額・不支給にする旨の株主総会決議があったとしても、取締役の同意がない限り、役員報酬を減額・不支給にすることはできません。
役員としての職務に著しい変更があった場合でも、報酬の減額が当然に認められるわけではありません。取締役等の役員と会社との間で締結した役員報酬契約が、どのような趣旨で定められたのかという契約解釈によって結論が決まることになります。
たとえば、役員の任期中の報酬額を条件を付けることなく定めたようなケースでは、取締役の職務に著しい変更があり、かつ、それを前提に役員報酬を無報酬とする株主総会決議がなされたとしても、取締役が同意しない限りは、役員報酬を減額することはできません。
他方で、取締役の役員報酬が、各取締役個人ごとではなく、取締役の役職ごとに報酬が決まっており、就任した役職に応じて報酬を受け取る形態の役員報酬契約内容になっているケースでは、役職の変更にともなって役員報酬を変更することは認められる場合が多いといえます。
このような契約解釈を考慮せずに、一方的に役員報酬を減額することや不支給にすることは認められませんので、未払いの役員報酬等を支払う義務が生じます。
取締役を辞任するように一方的に迫られ、解任されることなく、役員報酬が一方的に打ち切られるケースもありますが、そのような場合にも、未払い役員報酬を請求できることがあります。
取締役は基本的には従業員(労働者)ではありません。しかし、肩書として取締役を付されて、取締役と従業員を兼務する場合もあります。このような従業員兼務取締役は、就業規則や退職金規程の適用について「労働者」といえるかが争点になります。裁判例では下記のような考慮要素を総合的に考慮して判断しています。
これらの考慮要素を総合して判断し「労働者」であると認定される場合には、労働者としての賃金部分を明確にして(全額か、区分か、取締役就任直前の給料か)、解雇予告手当や退職金等の金額を算定することになります。
回答
損害賠償請求が対抗手段になります。
解任された役員は、解任によって生じた損害について賠償請求できることがあります(会社法339条2項)。そのため、解任する側の視点からすると、役員を不当に解任すると損害賠償請求をされるおそれがあり、損害賠償請求が潜在的なプレッシャーになります。その意味で、損害賠償請求権は、解任に対する事実上の対抗手段になり得ます。
回答
解任の手続きが適法になさせているか検討するとともに、会社に対して損害賠償請求ができないか検討しましょう。
もっとも、会社法等に詳しくないのであれば、弁護士に相談することをオススメします。損害賠償請求が裁判所に認められる可能性があるケースなのかを検証する必要があります。また、損害賠償手続が費用対効果が見合うものなのかを客観的に検証する必要があります。
回答
多くの場合、損害賠償請求が認められます。
解任による損害賠償請求が認められるのは、解任に「正当な理由」があるとはいえない場合です。会社の業績が悪いからという理由だけでは、解任の正当な理由があるとはいえませんので、損害賠償請求が認められます。もっとも、実際に損害賠償請求をすると、「解任した理由は、会社の業績が悪いからです」とだけ主張する会社はほぼありません。あることないことを主張してきますので、念のために証拠を保存しておくことをオススメします。
回答
特例有限会社において任期の定めのない取締役の解任損害賠償請求は、一般論として役員側の請求を否定的に解する裁判例が存在します。役員側の請求を否定的に解する裁判例の理論は、射程範囲が広く、任期の定めがない全てのケースで請求が否定されるようにも読めます。もっとも、当該裁判例の事件記録を検討すると、遺憾ながら役員側の訴訟活動が緻密になされていないことがうかがえます。当事務所が担当した訴訟においては、旧商法の立法趣旨に遡って当該裁判例の理論を批判するとともに事案固有の特殊性を強調する等の訴訟活動によって、高額の賠償を認める勝訴的和解に至った実績がございます。特例有限会社の役員解任損害賠償請求訴訟は、役員側の請求を否定的に解する裁判例の存在に諦めることなく、緻密な訴訟活動が求められます。一例として、当事務所が行う主張は次のようなものです。
1 条文について
会社法339条は、次のように定められている。
(第1項)役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
(第2項)前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
この条文を直接適用すると、解任された取締役は、任期の定めがなくても、損害賠償請求することができる。
2 不適用説について
ところが、会社法339条2項は、任期の定めのある役員に適用され、任期の定めのない役員には適用されない、と判示した裁判例がある。
当該裁判例は、会社法制定前の旧商法257条1項ただし書の「任期ノ定アル場合ニ於テ」という文言にこだわって、会社法においても同一の規律を維持しようとするものである。
当該裁判例は、次の各点を論理的前提にするものである。
①旧商法257条1項ただし書の立法趣旨は正当である(立法趣旨の正当性)。
②旧商法制定時と会社法制定時の間に立法事実の変化はない(立法事実の同一性)。
③旧商法の規律が維持されるべきである(法的安定性)。
④会社法339条2項について、旧商法257条の「任期ノ定アル場合」というような文言が存在しない理由は、株式会社の場合には取締役について法定任期が定められたからであるに過ぎないのであって、特例有限会社の場合には法定任期が定められない取締役が存在するから、会社法339条2項において「任期の定め」という文言に関するフォローがなされていない現状は、任期の定めがない取締役の存在を見落とした立法の不備である(立法の不備)。
3 不適用説の誤りについて
しかしながら、上記の不適用説の論理的前提は、いずれも誤っている。
①旧商法の立法趣旨について
旧商法257条1項ただし書の立法趣旨は、「任期の定めがない取締役はいつでも解任されることを予測して取締役に就任したのであり、解任されたことによって被った損害について、会社に損害賠償請求できないことは当然である」というものであった。
しかし、任期の定めがない取締役は「いつでも解任されることを予測して」取締役に就任したという理由付けは、現実から乖離したフィクションである。このフィクションが現実から乖離していることは、有限会社法の実務に関わる法律家にとって自明である。現実的には、取締役に任期の定めがない理由は、取締役が任期ごとに再任登記する手間を省ける点に大きなメリットを見出しているに過ぎず、決して「いつでも解任されることを予測して」いるわけではない。かえって、取締役は、特段の事情のない限り終身的身分で継続することを前提にしている例が圧倒的多数である。
また、会社法制定前の旧商法257条1項ただし書の明文規定があった過去の時点においても、任期が定められていない取締役については、法定の最長期間である2年を任期とする暗黙の合意があるとして、解任された場合の損害賠償請求が認められるという学説も存在した。
さらに、次のとおり、旧商法257条1項ただし書を立法論の観点から批判する見解も存在する。
・小規模閉鎖会社など株主が取締役として会社経営に積極的に関与することが予定されている会社では、株主保護の観点から、取締役の地位を保障する必要がある。
・本来的に非公開の小規模な会社を規制対象とする有限会社法32条が、大規模な公開会社を規制対象とする平成17年改正前商法257条1項を準用していたことに対する立法論的な批判が存在する。
・特例有限会社を含む公開会社ではない株式会社においては、任期について特段の定めが定款に置かれていない取締役等の地位の安定性が問題とされるべきである。
以上のとおり、旧商法257条1項ただし書の立法趣旨は正当性を有するとはいえず、かえって、不当である。
②立法事実の相違について
旧商法257条1項ただし書の立法趣旨は、任期の定めがない取締役はいつでも解任されることを予測して取締役に就任したのであり、解任されたことによって被った損害について、会社に損害賠償請求できないことは当然である、というものである。旧商法の立法当時の想定としては、「任期の定めがない」という法的な意味は、任期の定めがある場合(たとえば、任期5年、任期10年)よりも、取締役の地位に対する期待が小さいことを前提としていた。比喩的にいうと、取締役の地位に対する期待が小さくなる順序は、任期10年→任期5年→任期の定めなし、という順序である。
しかし、会社法が制定された際の立法者の想定は、旧商法の立法時とは異なっている。すなわち、平成16年6月9日に開会された、法制審議会会社法(現代化関係)部会第24回会議においては、次のような審議がなされている。
「バランスの問題で、有限会社が今度一体化されて、有限会社の取締役というのは現行法では期限がない、それとのバランスを考えてということなのでございますが、それで法律上は、原則として2年、監査役は4年という原則論を定めて、あとは定款自治に任せる、特に譲渡制限会社については定款自治に任せて……、ここも、私なんかに言わせれば、最長無期限でいいというぐらいのことを言いたいのでございますけれども、一つの仕切りは10年と。まあ、2年・4年・5年・6年・8年・10年といろいろあると思うのですが、一つの仕切りは10年と。」
「基本的に正に今の説明にあったとおりだと思いますし、それから、前回配られた資料などを拝見しましても、それから私どもは前から申し上げておりましたけれども、最長がこういう形になったとしましても、現実にそういう形で延ばすという方は決して多くはないということはいろいろなところでも出ているわけで、実際、そういうところをいろいろお考えになりながらやられると。ただ、結果的に、もともと期限の定めがないという類型というか、そういう選択が今度なくなる、ある意味で終身の方にどこか限定をつけていくという意味合いからしますと、この10年というのは一つあり得る整理ではないかという気がいたします。もちろん、解任決議のあれが今度普通決議に下がるというようなことも含めてのあれだと思いますけれども、一つこのあたりかなという感じがしております。」
以上の審議内容から明らかなとおり、会社法制定の際の審議において、「期限の定めがない」ということは、「最長」無期限、「ある意味で終身の方」という認識が前提となっている。そして、一つのあり得る整理として、最長任期を10年とした。会社法制定時の想定としては、「任期の定めがない」という法的な意味は、任期の定めがある場合(たとえば、任期5年、任期10年)よりも、取締役の地位に対する期待が大きいことを前提としている。比喩的にいうと、取締役の地位に対する期待が小さくなる順序は、任期の定めなし→任期10年→任期5年、という順序である。
すなわち、旧商法制定時と会社法制定時とでは、「任期の定めがない」という事実に対する認識が「全く逆方向」に転換しており、立法事実が異なっている。
③法的安定性について
旧商法の規律が維持されるべきであるという法的安定性に配慮する見方がある。
しかし、当該見解は、旧商法が会社法へ大改正された状況を誤解している。有限会社法が廃止されて会社法が制定された結果として、有限会社は「特例有限会社」へ変更され、旧商法及び有限会社法の法的規律が変更された箇所は大多数にのぼる。まるで有限会社法の規律が維持されており変更箇所がないかのような説明が見受けられることがあるが、それは誤解である。立法の建前としては、あくまでも例外的に、旧商法及び有限会社法の規律を維持する部分だけを整備法で明記した。つまり、原則は転換であり、例外が維持である。有限会社法の法的規律は、特例有限会社においては、変更されることが「原則」であって、維持されることは「例外」である。
そもそも、会社法339条2項には、旧商法257条1項ただし書にあった「任期の定め」という文言が存在しない。法律の明文規定という一見明白な差異がある。明文規定に反する解釈をすることは、逆に「法的安定性」を害する。
なお、ある書籍には「特例有限会社について、有限会社法の規律を維持するという観点からは、本条2項によって損害賠償請求できるのは任期の定めがある取締役または監査役に限られることになる」という記載があるが、この記載は「有限会社法の規律を維持するという観点からは」という留保を慎重に付したものであるにすぎず、この執筆者が有限会社法の規律を維持「すべきである」という評価を下しているわけではない。この執筆者は、「特例有限会社を含む公開会社ではない株式会社においては、任期について特段の定めが定款に置かれていない取締役等の地位の安定性が問題とされるべきでないかと思われる」と明記しているとおり、むしろ、有限会社法の規律を維持「すべきではない」という考えを持っている。
④立法の不備について
会社法339条2項について、旧商法257条の「任期ノ定アル場合」という文言が存在しない理由について、次のような説明をする者がいる。株式会社の場合には取締役について法定任期が定められたから、会社法339条2項には「任期の定め」という文言が不要とされたに過ぎない。特例有限会社の場合には法定任期が定められていない取締役が存在するから、会社法339条2項において「任期の定め」という文言に関するフォローがなされていない現状は、任期の定めがない取締役の存在を見落とした立法の不備である。
しかし、明文規定に反する法解釈をするには、立法者意思が積極的に明らかになっている必要があり、立法者意思と齟齬を生じないようにする必要がある。そうでないと、裁判所が国会の立法権限を侵すものであって、憲法原理である三権分立に反する。三権分立の観点からも、裁判所が「立法の不備」と断定することは厳に慎重になされる必要がある。
ところが、会社法339条2項において、旧商法257条の「任期ノ定アル場合」という文言が存在しない理由に関する立法者意思は明らかになっていない。なお、会社法制定の審議会の議論の際に、「明示的に」論点として取り上げられていないことをもって立法の不備の根拠とすることはできない。実際、旧商法時代に学説上大きな論争が存在した論点や明示的な論点検討がなされていない箇所についても会社法制定の際にルールが変更された箇所は複数存在する。会社法339条2項のような比較的小さな論点について明示的な論点検討をしないことは通常の事態である。
かえって、平成16年6月9日に開会された法制審議会会社法(現代化関係)部会第24回会議の審議過程においては、任期の定めがないケースでは最長10年という仕切りをすることが伺える。
さらに、「任期ノ定アル場合」という文言が削除されたことに積極的意味を見出す学説が存在する。
仮に立法の不備なのであれば、会社法制定後に行われた複数回の法改正の際にフォローしたはずである。それにもかかわらず、何ら会社法制定時から変更がなされていない。そして、平成26年に行われた会社法の大きな改正の際にも、会社法339条2項と任期の定めの関係性については、何ら立法的な手当は加えられていない。この立法経過は、何ら立法の不備がないことを示している。
不適用説の論者が「立法の不備」というのであれば、逆に、国会は、どのような条文にすれば立法の不備ではなくなるのか。例えば「特例有限会社における任期の定めのない取締役にも会社法339条2項は適用される」という附則を設けろ、とでもいうのであろうか。「立法過程において、このような附則を設けなければならない。このような附則を設けない限りは、明文規定に反する解釈をするべきである」というのであろうか。いうまでもなく、このような附則は立法の常道に反する。そもそも、会社法339条2項が明文規定をもって「任期の定め」を要件としていないから、「任期の定め」のない取締役にも適用されることが明文規定の帰結である。任期の定めのない取締役にも会社法339条2項は適用される前提であるからこそ、明文規定で「任期の定め」を除外したのである。
なお、会社法制定の際に法務省民事局長として活躍された人物は、寺田逸郎元最高裁判所長官である。
以上を総合すると、会社法339条2項は、任期の定めがない取締役の存在を見落とした立法の不備ではない。
4 まとめ
以上のとおり、会社法339条2項が任期の定めのない役員に適用されないという裁判例が論理的前提とする各種の要素は誤っている。かえって、会社法339条2項が任期の定めを要件にしていないことには相応の根拠がある。
よって、会社法339条2項は特例有限会社における任期の定めのない取締役に適用される。